2018年3月11日日曜日

句集『赤眼の腕』中内亮玄(なかうち・りょうげん)


中内亮玄(なかうち・りょうげん)略歴
金子兜太に師事 主宰誌「海程」同人
俳句結社「狼」同人 現代俳句協会会員
句文集「眠れぬ夜にひとりで読んでみろよ」
句集「青の麒麟騎士団」
随筆「兜太の遺伝子」


剥き出しの心臓である冬の汽車
車掌来て枯野を連れて行くように
黒縁の眼鏡に明朗なる大寒
別れ霜余震のテロップは無音
すれ違う人の傾き冬に入る
雪の夜は彼方の森が近くなる
桜散る僕らはまどろみの魚影
愛といいさくらしくしくと散らん
満開の空混み合うや花篝
桜とは無窮誰もが置いてきほり

句集『情の帆 こころのほ』篠田悦子(しのだ えつこ)


著者略歴 
篠田悦子 しのだえつこ
昭和五年十月、山梨県生まれ。昭和六十三年、カトレア俳句会を経て「海程」入会。平成四年、「海程」同人。第二回海程会賞、第四十九回海程賞、第四十回海隆賞受賞。現代俳句協会会員。埼玉文芸家集団会員。

序に代えて     金子兜太
  栖み古りて武州のみどり情(こころ)の帆
  夏の森一番星のため暮れる
 しっかりと自分の生活を身に付け、潔癖にからっと乾いていて、誠実に真面目にやっている篠田悦子の姿が此処にある。
 長いこと野草に親しんでいる篠田は武州の木々の緑の暖かさ、奥行きの深さを感受して生きていると思う。
 人間から植物、植物から人間へと大きく往き来する「こころ」即ち情(こころ)の動きを見る思いが普通にあり、そんな篠田の情(こころ)が、九十七歳の自分にいま、 柔らかく扶けになることが多い。


  ラムネ飲む常識お化け躱しながら

  紅花百貫ほどの夕日が裏口に

  濁流や逝く夏の木の間がくれ

  鮎のぼる土着のしずけさ妹たち

  会釈して御馬草(みまくさ)が匂う信濃人

  平凡とは丸いおにぎり森林浴

  葱焼ける野の匂いかな懐(ふところ)

  霾や地球に人が居なくても

  草木瓜の花胸熱く八十路なり

  人として棒立ちの汗爆心地

 ざっと取り上げて見て、改めて感心している。今更ながら嬉しく思う次第である。

句集『短編集』日高 玲(ひだか・れい)


著者略歴    日高玲(ひだか・れい)
1951年12月 東京生まれ
1973年ごろ「東京義仲寺連句会」にて連句に親しむ
1996年   束明雅主宰「猫蓑連句会」入会
2003年   退会
2003年9月 「海程」入会
2007年   「海程」新人賞受賞
現在     「海程」同人

――手法の自由さ   金子兜太

蛍火や野生の相(そう) となりて死す  日高 玲 

 夫君他界のときの策とおもうが、俳句の
会でお目にかかって間もなく、連句の会の
常連であった夫君が亡くなった。夫婦仲良く
連句と俳句に親しんで亡くなった。そして、
付合の手法を一句の句作りにも活用しして
独特な俳句の世界を築いていったのだ。眼が
大きくて明るい。
 たとえば俳句の一泊吟行会に参加したときも
遊牧のように鼻梁の並ぶ春の眠り  日高 玲
と。枕を並べて眠る句友を句材として親しむ
新鮮に消化してしまうのである。
クリックすると大きくなります
自選十句
春の夜の水音よみ人しらずかな
囀りや緑の眼眠る柩
白牡丹うつらうつらとうまい嘘
寝物語に犀の生き死に無月なり
紅葉かつ散る大航海時代かな
馬肥ゆる大津絵の鬼どんぐり眼
熊撃たる日曜の僕のベッド
ふぐ刺しの震えのように君寄り来
お降りや短編集に恋の小屋
なまはげの三人でゆく一列

句集「恋のぶきぶき」 川崎千鶴子(かわさき ちづこ)

                  文學の森  2667E


自 選 十 句
もういちど蝶になりたい白い紙
春眠をむさぼる力浮き麩かな
恋猫や声のぶぎぶぎ僕もぶぎ
田水張るぶるっと記憶もどるかな
夏星を挑発露天風呂のわたし
蟻じぐざぐ人間じぐざぐ眠るまで
七十年ぽっちの平和原爆忌
分校さびし本校さびし水母かな
鬼百合やひとり欠伸は手を添えず
まんげつの終着駅の海鼠かな

句集『秋の蜂』 川崎益太郎(かわさき ますたろう)



序に代えて    金子兜太
                    
 漂泊の表面張力すすき原  益太郎

 川崎益太郎のこの句、「漂泊の表面張力」という捉え方が魅力的で、「漂泊」の語義を詮索し始めると詰まらなくなりそうだ。一般的な感覚で受取りたい。
漂泊感でよい。そうすると、風に揺れているような揺れていないような、芒原の広い(この広いが大事)広がりが見えてくる。その頼りげな広がりの感触を「漂泊の表面張力」と言う。陽光まで感じる。人っ子一人いない。
   「海程」二〇〇七年五月号(新・秀作鑑言

 九条が耐える狂風原爆忌  益太郎

自主防衛の原則(九条)から、集団自衛へと色眼を使い出した政治の危うそ若者の命の危うさ。第25回ヒロシマ平和祈念俳句大会(金子兜太特選句・選評)

句集『黄鶺鴒』鈴木修一(すずき・しゅういち)


著者略歴  鈴木修一

昭和35年11月 秋田県秋田市に生まれる。
昭和60年 歌誌「香蘭」入会(平成4年まで)俳誌「礁」(鈴木勁草代表)「みづうみ」に参加
昭和61年  鷹(藤田湘子主宰)に投句開始(昭和63年まで)
昭和62年  海程に入会
平成3年  詩の創作を始める。「詩民族」(佐藤博信代表)に参加。
平成4年  第27回海程新人賞受賞
平成8年  県高文連文芸部会俳句部門の講師、選者を務める。(平成15年まで)
平成9年  合同句集『海程新鋭集 第2集』に自選100句を発表
平成20年  第6回同人年間賞受賞
平成21年  第9回海程会賞受賞
現 在[海程]同人、現代俳句協会会員

序に代えて     金子兜太
人の背は瀬音に黙し黄せきれい  

 川っぺりにこういう風景はよく見受けるよね。多分男の人でしょう、すーつと川原に立っていて、瀬音だけが妙に聞こえてくる。その人は黙っている。
その傍近く黄せきれいがチョンチョンと飛んでいる。黄せきれいで、なんとなく明るい気分。
 意味を探る必要のない句ですね。なんとなく懐かしさのある風景だけを静かにとらえればいい。その風景をとらえている人の気持ちのやわらかさ懐かしさというのがいい。妙に知的な感じの男の人の背中を感じるね。
    (「海程」192号所収「秀作鑑賞」より)


句集『風あり』内野 修(うちの おさむ)


著者略歴 内野 修
1943年5月30日 埼玉県大里郡妻沼町(現熊谷市)生まれ
句集「単発機」『直登』
現在、「海程」同人、現代俳句協会会員、NHK学園俳句講座講師、
埼玉新聞「埼玉俳壇」選者

あとがき
一九九三年から二〇一二年までの二〇年間の作品の中から、各一年間の作品を二〇句ずつ選んで、四〇〇句をまとめて第三句集とした。
『風あり』という句集名は、自然とともにあるという人生観を表している。これからも自然とともにあり、人間(じんかん)にあって、俳句を作ってゆきたいと思っている。

  二〇一五年 晩秋           内野 修


日本人余分に笑ふみぞれかな       

寂しさの大きさ鹿の大きさに      (大台ヶ原)

蝶の目のらんらんと我の汗を吸ふ   (大杉谷)

藁塚と愛犬匂ふ日暮れかな     

母亡くて春の日ざしのありにけり    (母みまかる)

草刈ってきけいに刈って一休み

秋の夜のテレビを少し乱しけり     (NHK俳壇に出演)

句集『羽後残照』武藤鉦二(むとう しょうじ)


略  歴 武藤鉦二(むとう・しょうじ)
昭和10年  12月 秋田県生れ
昭和30年  西東三鬼により俳句入門 34年F断崖」同人
昭和37年  金子兜太に師事「海程丿入会 39年「海程」同人
昭和48年  秋田県俳句懇話会「作家賞」受賞
昭和52年~ 現代俳句協会員
昭和58年  昭和57年「合歓」賞受賞
平成2年  秋田県国語教育研究賞受賞
平成11年  しらかみ句会設立 「しらかみ」創刊
平成13年~ 海程秋田支部長
平成13年~ 14年 秋田県現代俳句「作家賞」2年連続受賞
平成15年  第4回「海程会賞」受賞
平成15年  句集「羽後地韻抄」(うごちいんしょう)上梓
平成16年  第29同・平成15年度 秋田県芸術選奨受賞
平成16年~ 北羽新報新春文芸俳句選者
平成18年~ 秋田魁新報「さきがけ俳壇丿選者
平成19年  第41回「海程賞」受賞
平成21年  秋田県俳句懇話会「作家賞」受賞
平成23年  第43回秋田県芸術文化章受章
現  在  「しらかみ」主宰「のしろ俳句の会」指導、
                   「海程」「合歓」同 人
      秋田県現代俳句協会会長  海程秋田支部長

      秋田魁新報「さきがけ俳壇」選者 

帯  金子兜太

  岩と土:の重層する暗部の粘り強さとともに善意でユーモアに富む明るい資質が十分に諧謔を賞味させてくねることが貴重と思う。双方の特徴が融け合って溢れ出す感性の豊かさ。諧謔含みの乾いた具象感が「奥羽山脈のどてっ腹に過ごした」時代をも韻かせている。

 自選十句より
  尺蠖の輻に写経の母います
 雲跟野や沼守の名が沼の名に
 鬼太鼓の不意のの打止め夜の蝉
 掻いて雪掘ってまた雪絵ろうそく
 はらからやひよこひしめく箱運ぶ
 父の掌に雪の径あり山河あり
 だまし絵のなかのふくしま夕桜
 収縮も弛緩も飽きてなまこかな
 氷柱にも念力津軽あいや節
 鬼になれる器でもなし夕ざくら

句集「谷と村の行程」 白井重之(しらい しげゆき)

平成俳人叢書 定価2667+税

著者略歴 白井重之(しらい・しげゆき)
昭和12年 富山県立山町生まれ
昭和44年 俳人家木松郎先生を知る
昭和47年  「海程」福井勉強会で金子兜太師に初めて会う、「海程」5月号から投句
昭和49年 海程新人賞受賞
平成8年  句集『わが村史』刊行
平成9年  海程賞受賞
平成25年 富山県現代俳句協会会長
現  在   俳誌「海程」同人・「海程富山」支部長。
         みのり俳句会代表・現代俳句協会会員

帯より
田の中でぐらり青嶺の乱反射

いぐつもの谷を背後にした村での暮らしが長くなった
まことに狭い範囲に生きてきた人間が表現する
俳句どいう詩型は、私にとってもっとも
相応しいものだったと思っている   
「あとがきより」

句集『風媒』柳生正名(やぎゅう・まさな)



著者略歴 柳生 正名
1959年 5月に大阪市で生まれる。その後は主に首都圏で過ごす。
1992~3年勤務先の社内句会に参加。大木あまりの指導を受ける。
1995年 「海程」への投句を始め、金子兜太に師事。海程新人賞。海程賞など受賞。
2006年 現代俳句協会評論賞受賞
現在  「海程」同人 現代俳句協会会員 同評論賞選考委員

    自選12句
  牡丹に金閣燃ゆる闇のあり
  麦秋のどこまで眠りどこより死
  螢火を映して少し水でゐる
  玉虫の碧に人が沈みけり
  ロザリオや二百十日の頚細く
  水満ちてきてばつたんこすぐに空
  冬菫人間魚雷に窓なけれ
  鬼房ゐて海猫来て束北鉈の冷え
  臘梅と卑弥呼刺青冷たけれ
  雛流す甚平鮫へつづく水
  古雛を仕舞ひ土星の輪の薄き
  地に殉教宙に毛深き蝶の貌 

句集『かもめ』山中 葛子(やまなか かつこ)

略 歴 山中 葛子
昭和12年(1937)千葉県市原市生まれ。
昭和31年より同人誌「炎星」「黒」「俳句評論」を経て、
昭和37年「海程」創刊同人。「海程賞」受賞。
句集『魚の流れ』『縄の叙景』『山中葛子句集』
   『青葉天井』『球』『水時計』
現在「海程」同人 現代俳句協会会員 千葉日報俳壇選者

帯より 金子兜太

かもめは小生のなかの山中葛子の映像で
もある。房総の海と空を屈託なく飛び、
発想独特、且つさわやか。かもめより自
由とおもうこともあるくらいだ。

句集『そんな青』宮崎斗士(みやざき とし)


句集 そんな青 宮崎斗士   六花書林  2300E

帯より    金子兜太
 
詩が溜まっているから
峠をどんどん歩いてゆく
鹿や狐や猪に
よく出会う
どっちも笑う    
  
著者略歴    宮崎斗士(みやざき とし)  
1962年東京都生まれ。
「海程」所属。「青山俳句工場05」編集発行人。
現代俳句協会会員。
第5回海程会賞、第45回海程賞、
第27回現代俳句新人賞受賞。
第1句集『翌朝回路』(六花書林)。
 
言語の跳躍力へ      安西 篤 

 宮崎斗士の第二句集『そんな青』が上梓された。第一句集の『翌朝回路』の発刊から八年半ぶりの上木という。私には、八年半という時間がまだ信じられないほど、『翌朝回路』の衝撃は今も生々しい。例えば次のような一連。

 一人暮らしはまず陽炎に慣れてから 
 前世は岡っ引きです日曜大工  
 木耳やアインシュタイン的ぼんやり
 蓑虫の上下にうごく若旦那  

 感性を全開にして、片端から俳句にしてしまう『翌朝回路』の作品群を前にして「俳句ってこんなに面白いものだったのか」思わずにはいられなかった。だが同時に、これだけの新鮮さを維持するのは容易なことではあるまいとも。『そんな青』はそんな懸念を吹き飛ぱすものだった。
 
 東京暮らしはどこか棒読み蜆汁 
 鮎かがやく運命的って具体的
 終戦記念日輪投げのぼんやりと成功
 蓑虫にも僕にもぴったりくる雨音

句集『私雨』塩野谷 仁(しおのや じん)



『私雨』 塩野谷 仁

 角川学芸出版  2700E
 本書は『全景』につぐ第七句集である。平成二十一 (二〇〇九)年
 から平 成二十五(二〇一三)年までの作品を収めた。配列はほぼ
 制作順である。
 麦飯は日暮れの匂い私雨) (わたくしあめ) から採った。
  
  塩野谷仁 自選十二句

  きのうにも昨日ありけリ薺粥
  行き先はきさらぎのあの水鏡
  野遊びの終りはいっも大きな木
  落日をたしかめにゆく蝸牛
  麦飯は日暮れの匂い私雨(わたくしあめ)
  こころにも左側あリ落雲雀
  盆過ぎの象の高さを愛(かな)しめる
  胡桃割る丸ごとの淋しさを割る
  さかしらを悔みつ鬼の子と揺れつ
  むこうからささやいてくる鳥瓜
  にわとりを真っ白にして十一月
  いつか来るつぶてさざ波白集

句集『箪笥』若者京子 (わかもり きょうこ)


帯より     金子 兜太   

「紬の京子」と俳句仲間から言われている。
着物好き、そして箪笥好き。 
畳のさっぱりした箪笥の部屋に坐って、     
この人の感性は更に豊潤。
 
雛流し耳殻にはるかなる怒濤
透明ないのちの分母かたつわり
一汁一菜みのむしの愛吹かれて
ふくしまや虹を観念的に画く
授乳の汀しずかに被曝の波寄せる
耳鳴りや古野に巣作りの気配
浮島現象アンニュイな日向ぼこ
霾や阿弥陀のてのひらは荒野
七十路絽にも紗にも添い遂げよう
寒鯉や箪笥の底に澱むもの

句集『蒼の騏麟騎士団』 中内 亮玄(なかうち りょうげん)


海程11月「小野裕三・抄出」から転載させていただきました。

 『蒼の騏麟騎士団』抄 中内 亮玄

線路というにわかに冷えた父子かな

少年まだ遅刻の途中冬の空

万歳のどこから伸びる影だろう

地下鉄は春飲み込んで潜りおり

そら豆ご飯風がたくさん入る家

手袋のなかの明かりを聖夜という

家族という綺麗な糸よ冬の朝